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こうして物を書いている私の窓の前に、一本の老いたる桃の木が立っています。

この桃の木の姿は、前述の私がこうありたいとのぞむ抵抗の姿勢にいちばん近いわけです。

 

つまり、目的と手段とをそれ自体のなかに同時に統一的に完結させており、

他のものをどういう意味ででも圧迫したり搾取したりしないで独立しており、

もっともよく抵抗するために、まったく抵抗しないという姿勢をとることです。

もちろん人間は桃の木にはなれない。しかしそれから学ぶことはできます。

自分の姿勢を桃の木のそれに近づけ似せることはできます。

生活と仕事とを目的と手段とに切りはなさず、目的が手段であり手段が目的であるといったように、

またそのようでありうる生活と仕事とを持つことは、私どものクフウしだいで、ある程度までできます。

 

自分がホントにやりがいがあると思える仕事をとりあげ、

それ以外の仕事はなるべく早く、なるべく完全に捨ててしまうことが必要でしょう。

 

生きているうちに人は知らなければならぬことがある。

味わわなければならぬことがある。その余のことは早く捨ててしまえ。

これだけを実行すれば、その人の立っている姿は桃の木の立ちかたに似てきます。

そして他からの圧力にむかって抵抗するのに自分本来の内容を失ったり歪めたりしないで抵抗することができ、

したがって、もっとも実効あり長つづきのする抵抗ができるわけでしょう。

(「抵抗のよりどころ」三好十郎 1952 より抜粋編集)

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